その夜私は、床に突っ伏して詫びていた。
相手は40歳以上も年上の霊能者。
もしかしてコレは土下座??
そんな意識とは別に、私の声が語っていた。
「本当に申し訳なかった。そなたをたばかる衆を止める力が、私にはなかった」
言葉は私の口から飛び出しているけれど、
そしてもの凄い謝罪の感覚があるんだけど、
感覚が自分のものじゃないことは明らかだった。
彼女は棒立ちになり、涙を流していた。
と思う・・・。
何か聞こえたが、聞き取ることができないほど、細く小さな声だった。
どれくらい時間が経ったのか、全くわからなかった。
そのあと、どうやって眠ったのかも思い出すことができない。
【過去世の遺恨が現象として現れた。その始まりとは・・・】
そもそも私宛の手紙を無断で開封して、検閲まがいのことをしたのは彼女だった。
そのことを知り、激しく怒ったはずだったのに、
どうして私が土下座して彼女に詫びていたのか???
翌日、4時半起床。
いつもの朝詣りに出かけた。
妙に身体のあちこちが痛み、頭の芯がジンジンしていた。
それでもじっくり思い出すなんてことができなくらい、一挙手一投足に集中した。
考えたとしても整理がつかない。
時系列を無視した出来事を無理矢理理解しようとしても、
意味付けしてしまって、より複雑になる。
私は考えることも整理することも完全に放棄した。
その日最初に自分の声を耳にしたのは、祝詞をあげたときで、
音に全ての神経を集中していた。
普通に声を出すと、叫んでしまいそうだったから。
背景となった前世・・・、時は14世紀ごろの朝鮮だ。
彼女も私も男性で、ともに武官だった。
親しい間柄で、家族ぐるみの付き合いをする仲だった。
時の政権争いの渦に飲まれ、派閥を追われたのが彼女。
追われるだけではなかった。
彼女(彼)の妻は毒殺され、娘二人は惨殺された。
息子は行方が分からないままだ。
私は知っていた。
派閥を率いる存在が、正義感に燃え、派閥になびいては来ない彼女(彼)を疎ましく思っているのを知っていた。
表向きは友好的に振舞っていた派閥の長は、
彼女(彼)宛ての書簡を途中で差し替えていた。
反逆者としての汚名を着せて抹殺するためだ。